命と引き換えに
一方、残金未納になっている仕事の証拠を持ち出されたことが分かった組織はメモリの行方を血眼になって探していた。
ユンソンの友人が割り出され、耐え難い脅迫を受け、送り先を吐いてしまった。
ユンソンからパク家にメモリが渡った事を突き止めた組織は、取り戻す為にナンギルを送った。
上からの言いつけには、幼いころから断ることを知らないナンギルは、言われるがまま実行する。
気配を消してパク家に侵入した。
書斎でパソコンに向かっていたソジュンが、一息取ろうと飲み物を取りに行ったとき、連絡をもらったジウンがちょうど帰ってきた。
「ヒョン、すぐに取り掛かろう。なんとかできると思う。」
「ああ、頼むよ。今、もう一度見ていたんだが、俺には手に負えない。」
―誰かが、部屋に戻ってくる。―
ナンギルはパソコンからメモリを抜き出し、とっさに気配を消して物陰に隠れた。
慌てて物音を立てて逃げ出すより、まずは時を待った方が得策だという事を経験上習得している。
それになにか証拠を掴んだかもしれない、という不安もある。探りたい。
気配を消していれば見つかることはない。
カチャ……
ドアを開けたソジュンがジウンを制した。
「(ジウン、待って。)……誰だ!!」
まさか……見つかるなんて!!
一直線にこちらに向かって歩いてくる部屋の主人に恐怖を覚えた。
ソジュンが部屋に隠れていた不審な人物と揉み合いながらリビングまで出てきた。
セキュリティボタンを押しに行ったジウンにナンギルが気付いた。
止めなければ!厄介なことになる!!
掴みかかられているソジュンを思い切り蹴り飛ばした。
手には隠し持っていたナイフが握られていた。
今まで仕事でここまで厄介になったことがない。ナンギルは恐怖と共に殺意をむき出しにしている。
物音が気になってオモニが部屋から出てきた。
吹き抜けになっている2階からリビングを見て驚いた。
見知らぬ男がナイフを持って息子に襲い掛かろうとしている。
「きゃー!」
叫び声でナンギルの恐怖が更に増した。
《シュン!》
ジウンを庇うようにアキラが前に立っていた。誰も呼んだわけではないのにアキラがそこに立ちふさがっていた。
ナンギルが握っていたナイフがアキラの腹部に埋もれている。
お前……。なぜここいる。
俺にはわかる、ここを刺されたら……助からない。
床に転がされていたソンジュンが今まで見たことがない強い念力でナンギルを吹っ飛ばした。
ナンギルは壁に思いっきり叩きつけられ、気を失いかけながらもメモリを歯で噛み砕き、壊した。
こんな時でも言いつけを守らなきゃいけないと思う自分に呆れる。
俺はあの子を失うんだ……
大好きだというヒョンの腕の中で血の色に染まっていくパジャマ姿のアキラを呆然と見ている。
駆け寄りたい。体が動かない。そんな資格もない。
カン・ナンギルの頬に生まれて初めて涙が伝い、深い闇の底に落ちて行った。
「あの人は悪い人じゃない。助けてあげて……」
「なにを言ってるんだ。お前をこんな目にあわせたヤツだぞ。
それにアボジをやったのもたぶん、」
「ヒョン!」
「わかった、わかったから。もうしゃべるな。」
((ヒョン、ありがとう。大好きだよ。))
心で語りかけ、微笑みを浮かべた。
俺は無言でうなづいた。
涙があふれ、喉が詰まって声が出ない。
そして、アキラの焼けつくような痛みも俺に感じられなくなっていった。
すぐにホームセキュリティ会社の方から警備員が駆け付け、ほぼ同時に警察も119も到着した。
「…死亡を確認しました。ご臨終です。」俺たちの見守る中、アキラは逝った。
((ヒョン達、大好きだよ!弟になれて幸せだった。愛してる。これからも傍にいるよ。))
心の声をしっかりと伝えてきた…
お読みいただきありがとうございました!
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