会長傷害事件
「今年度入寮の皆さま、おめでとうございます。
ご家族、ご兄弟のみなさまにおかれましても……」
グループ企業で全面的にバックアップしている私設学生寮「成均寮」の入寮式典に来賓として出席し、祝辞のスピーチをする会長。
金銭的に余裕がなく進学を諦めることのないよう、成績優秀の者には社会人になるまで生活全面を段階に応じて支援する。
勉学に没頭できるよう、時には親や兄弟へも金銭的援助をすることがある。
かなりの競争率で狭き門だ。どんなに成績が良くても最終審査でもある会長直々の面接で合格しなければ入れない。
この時、技術職に就いた方が将来伸びるとみれば、個人の能力に応じて進学を薦めず職を紹介することもある。
適材適所に人材を配する事が出来るのが会長(アボジ)の能力だ。
秘書室長 イ・ユンソンもここの出身者だ。
「では、この後、親睦パーティに移ります。中庭の方にお進みください。ご家族、ご兄弟の皆さまも楽しいひと時をお過ごしください。」
希望に満ちた学生達のなか、一人冷ややかな目線を会長に送る者がいた。
「きゃーーーー!!」
「フェジャンニン!」「会長!!」
わき腹から真っ赤な血を噴き出して会長が倒れた。
イ・ユンソンが駆け寄る。
傷口を押さえながら叫んだ。「救急車を!早く!!」
刺し傷だ。辺りを見回しても怪しい者はいない。
SP達も警戒態勢に入る。
その後、警察も到着し、現場検証が行われた。
誰も怪しい者を見てはいなかった。
後日、CCTV(防犯カメラ)の録画を入手した警察が、代表が刺される場面が写った映像を確認した。
すぐ横を通り過ぎた男。しかし、誰も記憶になかった。
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